1.前回の振り返り
前回(第6回)は、中小企業における人的資本経営の重要ポイントとして①経営トップにおける社員に対する人間観 ②動的人材ポートフォリオについて解説しました。
今回から中小企業における人的資本経営の実践ステップについて、①現状把握 ②人材戦略の構築 ③人事施策の構築 ④人事施策実践 ⑤モニタリング ⑥育成・処遇への反映 ⑦経営実績へのインパクト検証の順で解説していきます。
2.現状把握
(1)As-is(現状)分析
①定量分析
現状を客観的データで分析することは重要です。人事関連で押さえておくべき代表的なデータは次のとおりです。
1)労務構成
社員の属性区分により定量的に把握します。男女別・勤続年数別・職種別・役職別(等級別)などの属性区分で人数を把握します。縦軸に年齢(5歳きざみ)、横軸に人数をとり色分け等で男女別・勤続年数別・職種別・役職別(等級別)で区分します。社員の高齢化が進んでいるのか、ダイバシティは進んでいるのか、勤続年数はどうか(定着率はどうか)、職種別に必要人材は満たされているか、役職者は順調に育成できているかなどデータを基に分析します。
2)賃金プロット図
社員の月例賃金(固定的に支払う賃金)を年齢別、勤続年数別、男女別、職種別、役職別(等級別)などの切り口でプロット分析します(エクセルのプロット図)。次に賃金水準を厚生労働省「賃金構造基本統計調査」、国税庁「民間給与実態調査」などの統計データで検証します。更に、人件費と生産性との関連を経年変化(5年間など)で検証します。労働分配率(人件費/付加価値)、売上高人件費率(人件費/売上高)、一人当たり人件費などの指標の動きを分析します。これらの指標は、業界ごとに平均的な値はありますが、必要以上に意識する必要はありません。それよりも自社の値が経年で良くなっているのか・悪くなっているのかの傾向をしっかり押さえることの方が重要です。
3)社員の業務遂行能力(タレントマネジメント)
社員一人ひとりの業務知識・技術・技能・経験等を可能な限り定量的に把握します。どこに強み(適性)を持ち、将来キャリアをどう考えているのか、どんな働き方を希望しているのかなどの社員情報を正確に把握します。
②定性分析
定性分析の手法としては、組織風土診断、社員満足度調査などが代表的と言えます。これらの手法を活用しなくとも、会社風土が良い方向に向かっているのか・悪くなっているのかは肌感覚でも実感できると思います。1on1などの個別面談を定期的・継続的に行うことにより社員の意見・考えを把握することが重要と言えます。
(2)As-is(現状)とTo-be(ありたい姿)のギャップ分析
上記(1)の現状分析をしっかり行った上で将来(5~10年先)のTo-be(ありたい姿)を鮮明に描きます。ありたい姿に近づくためには、どこの部署に・どんな人材が・何人必要になるのか、そうした人材をどう育成・中途採用するのか、そうした人材が活性化して働く環境はどんな環境かなどありたい姿に近づくためのストーリーを明確にします。As-is(現状)とTo-be(ありたい姿)が鮮明になれば、そのギャップが見える化できます。このギャップを解消するための施策を構築し実践していくことが求められます。
次回は、ギャップ解消のための人材戦略の構築ポイントついて解説します。