女性取締役の話
今回は、今年の株主総会の大きな話題となる女性取締役のお話をいたします。
約1年前の2023年6月13日、政府(「すべての女性が輝く社会づくり本部」「男女共同参画推進本部」)は『女性活躍・男女共同参画の重点方針2023』いわゆる『女性版骨太の方針2023』を発表しました。
その中で、「社会全体で女性活躍の機運を醸成し、多様性を確保していくことは、男女ともに自らの個性と能力を最大限に発揮できる社会の実現のために不可欠であるとともに、イノベーションの創出と事業変革の促進を通じて企業の持続的な成長、ひいては日本経済の発展に資するものである」とし、「女性活躍と経済成長の好循環の実現に向けて官民一体で取り組んでいく」としました。
「諸外国が数値目標の設定等により企業の女性役員比率の向上を着実に実現していることと比べて大きく立ち遅れて」おり、「国内外の投資家がその投資判断において企業の女性役員比率を重視する傾向が強まっていることを考慮すると、日本経済の今後の成長のためにも企業における女性登用を加速化させることは、まさに喫緊の課題である」と位置づけています。
そして企業における女性登用加速化のための『重要かつ象徴的な第一歩』として、以下のようなプライム市場上場企業に係る女性役員比率の数値目標を設定しました。
・2025年を目途に、女性役員を1名以上選任するように努める。 ・2030年までに。女性役員の比率を30%以上とすることを目指す。 ・上記の目標を達成するための行動計画の策定を推奨する。 |
これを受けて東京証券取引所では、この内容を、「プライム市場の上場内国会社における女性役員比率に係る数値目標の設定」として定めました。(※上記の女性役員には、取締役、監査役、執行役に加えて、執行役員又はそれに準じる役職者を含むことができます。)
【上場規程第445条の7,上場規程別添2】
骨太の方針が出された当時、1人以上の女性役員が選任されていた企業は東証プライム上場企業の81.3%、女性役員30%異常を達成していた企業は2.2%(いずれも2022年7月末時点)に過ぎませんでしたが、内閣府男女共同参画局によるとプライム市場上場企業における女性役員の割合は2022年の11.4%から2023年には13.4%に増えました。しかしながら2023年時点においては、プライム上場企業の約1割の企業に女性役員が1人もいない状況にあります。
2025年目途に数値目標を達成するために、この約1割の企業は今年の株主総会で最低でも1人の女性役員を選任する必要に迫られています。
そして女性役員を2030年までに30%以上にするためには、2025年の株主総会以降も毎年1~2人ずつ数年かけて2029年の株主総会までに増やしていく必要があります。
女性役員が少ない理由として女性専門の人材紹介会社である株式会社Warisの分析によれば以下の3点を挙げています。
- 家庭や育児との両立の難しさ(「女性は家庭を優先すべき」という旧来型の固定観念)
- 職場でのジェンダーステレオタイプ(性別に基づく固定観念)と無意識の偏見
- 男性主導型の組織文化やリーダーシップスタイルの問題
ちょうど朝ドラ「虎に翼」の主人公たちに立ちはだかっている障壁は、100年近く経ってもなかなか好転していないのが日本の現状です。
この30%という数字は男女比を2:1に近づければいいという単純な話でありません。
今年4月12日、藤井輝夫東京大学総長は東京大学入学式の祝辞の中で、企業は10.6%の女性役員比率を2030年までに30%にするという目標に掲げているという話を紹介し、東京大学も学生の女性比率や新たに採用する研究者に占める女性の割合を30%にするという目標を明記したことを述べられてから、「なぜ30%という数値目標なのかということですが、ハーバードビジネススクールのロザベス・モス・カンター教授は、ビジネスの場に関する研究において、女性が15%に満たない組織では、女性一人ひとりの能力や技能が、女性という集団的な属性に関係づけられる傾向があること、そして女性の比率が30%を超えるとそうした傾向が変わりうることを指摘しました。すなわち、女性個人としての能力や技能に応じた貢献が可能になり、意思決定プロセスに影響をあたえ、組織のさまざまな変革を推進できるようになるということです。であればこそ、その状況ゆえに活躍できない少数派の女性の割合を30%にまで上げることが、公正な社会実現に向けた最初の目標となるでしょう。」と公正な社会実現への第一歩が女性の割合を30%にまで引き上げることだと述べられました。
女性比率30%という目標が、男女が公正な社会実現のための第一歩ということであれば、2030年までに東証プライム企業が目標を達成すれば終わりということではなく、いずれはスタンダードやグロースの企業も達成しなくてはならない目標となるであろうことは自明の理と言えましょう。
しかしながら未だ経営人材としての女性は絶対数が不足しているのが現状であり、将来の経営を担う女性の育成、その予備軍としての女性管理職の育成は各企業とも喫緊の課題であり、また社外取締役としての女性役員への役割期待も高まっています。
CMCグループでは、メガバンク系人材会社との共催で「社外取締役養成講座」を昨年から提供しております(第1期生)。この第1期生の中から2名の女性が社外取締役に就任予定です。2024年夏には第2期生募集の予定であり、今後も継続的に社外取締役、特に女性社外取締役就任に向けての支援プログラムを提供してまいります。