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中小企業におけるサステナビリティ経営の留意点 人的資本経営編 第4回

1.前回の振り返り

 前回(第3回)は、人材版伊藤レポートにおける「3つの視点」の実務対応ポイントについて解説致しました。今回は「5つの共通要素」の実務対応ポイントについて解説します。

2.5つの共通要素の実務対応ポイント

(1)動的な人材ポートフォリオ

①期待人材像の明確化

 中長期経営目標を達成するために必要となる人材像(質・量)を鮮明に描くことを求めています。中長期の数値計画は策定しているが、必要となる人材像(質・量)を鮮明に描けている会社は少数です。経営幹部職・マネージャー職・プロフェッショナル職・プレーヤー職など役割機能別に必要となる人材・求められる要件等を鮮明にすることを求めています。

②現状人材のデータベース化

 社員一人ひとりの能力・技術・技能・経験・本人希望・評価履歴などの人材データベースを構築し、客観的に現状人材を把握できるようにしておくことを求めています。上記①の期待人材像と現状人材のギャップが分かれば打ち手が見えてきます。人材データベース化は中小企業において遅れているといえます。計画的な投資を検討すべきテーマです。

(2)知・経験のダイバーシティ&インクルージョン

①非連続的なイノベーションを生み出す

非連続的なイノベーションを生み出す原動力は、多様な個人の掛け合せであると述べています。中小企業においては、例えば販売促進企画を検討する際に経理・総務・人事などの他部門の社員にも参加してもらい「知と経験」の交流を図ることにより新たな発見が生まれ、営業部門だけでは考えられない企画案が策定できる可能性があります。

②知・経験のダイバーシティ&インクルージョン

他業界での経験等のキャリアパス、専門分野の多様性を取り込むことが重要と述べています。中小企業においては、社員の多くがキャリア採用(中途採用)であり、他業界(他社)での経験者採用です。「うちのやり方はこうだから」ということではなく、キャリア採用者が持つ他社の経験から学べる点を積極的に活用しブラシュアップしていくことが重要といえます。こうした取組みは、会社の仕組みを高度化するだけではなくキャリア採用者の活性化にもつながります。

(3)リスキル・学び直し

①自律的なキャリア構築の支援

社員の成長なくして企業の成長は困難です。企業経営環境はスピード感をもって変化します。「これまでの仕事のやり方」では、「これからの経営環境」に対応できないことは数多くあります。企業には、社員のスキル・スキルシフトを促進する育成環境を整えることが求められ、社員本人は自律的キャリア開発を行うことが求められます。

②IT環境整備・ITリテラシー

中小企業においては、IT,DX投資を計画的・継続的に実施することが重要といえます。生産年齢人口(15~64歳)が減少し続けており人手不足が解消されることはありません。デジタル技術による業務生産性の向上を図るとともに、デジタル技術活用による新たな付加価値創造することが重要となっています。

(4)従業員エンゲージメント

①社員のやりがい・働きがいの確保

社員エンゲージメントを高めるためには、やりがいや働きがいの確保が重要であると述べています。社員エンゲージメントには2つの切り口があると筆者は考えています。1つ目は「ジョブエンゲージメント」。自分が担当している仕事そのものが自分の適性や能力に合っており仕事のやりがいを感じられるジョブエンゲージメント。2つ目は「組織エンゲージメント」。自分が所属する組織(会社)やチームにおいて自分の仕事ぶりが承認され、自分の貢献度を実感できるという組織エンゲージメント。この2つのエンゲージメントをどのように高めていくかがポイントになると考えられます。

②会社目標と個人成長の一体化

会社目標達成のために必要となる期待人材像を明確にした上で個人目標をストレッチ目標として設定することが求められます。ストレッチ目標は、トップダウン的に一方的に設定するのではなく、トップダウン⇔ボトムアップの双方向によるコミュニケーションにより設定することが肝要となります。伊藤レポートの「企業と個人が対等な関係の下で一体となって企業成長の方向性やベクトルを一致させていくことが重要である」に象徴されます。

(5)時間や場所にとらわれない働き方

①時間や場所にとらわれない働き方

コロナ禍により一気に加速したテレワークです。約3年の経験を経てメリット・デメリットも大分整理されてきました。中小企業においてはIT環境整備が遅れていること、業務フローが不安定なことや業務のアウトプットの特定が曖昧なことなどによりテレワークの導入が進みませんでした。テレワークが進まなかった原因を分析し計画的・着実に解決していくことが重要といえます。事業継続性(BCP)の確保、働き方の多様性の確保、業務生産性の向上などに直結することでもあり積極的な対応が望まれます。

次回は、人的資本経営に関する政府・東京証券取引所の動きについて解説します。

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