1.前回の振り返り
前回(第2回)において「人材版伊藤レポート」における「6つの変革要素」と「3つの視点と5つの共通要素」の概要を説明しました。今回は、「3つの視点」における中小企業の取組みポイントについて解説致します。
2.「3つの視点」の実務対応
(1)視点1.経営戦略と人材戦略の連動
①人材戦略の策定・実行の前提
経営戦略と表裏一体となる人材戦略の策定・実行を求めています。まず、表となる経営戦略が先に明確になっていることが必要です。中小企業においては、中期経営目標や経営戦略は「社長の頭の中にある」ケースが結構あります。また、売上目標等の数値目標の設定はあるが、その数値目標達成のための経営戦略が明示されていないケースも多いといえます。どこを目指すのか・そこに至る戦い方(戦略)は何なのか・戦略を実行するための具体的なアクションプランは何なのか等を全社員に見える化することが前提となります。その上で、経営戦略の実現を支える人材戦略を策定・実行することを求めています。まず、経営目標・経営戦略を見える化(共有化)することが重要となります。
②具体的な人材戦略・アクションプラン・KPI
見える化(共有化)された経営戦略を実行するのは社員です。経営戦略を実行するために社員に求められる仕事・役割を部門別・階層別に明確に策定することが求められます。部長の仕事・役割、課長の仕事・役割、一般職の仕事・役割を階層別に鮮明に描きます。この求められる仕事・役割と現状とのギャップが「重要な人材アジェンダ(課題)」となります。この重要な人材課題をどんなステップで・どんな方法で・何時までに解決するのかなどを明確にするのが人材戦略となります。
(2)視点2.As-is To-beギャップの定量把握
①As-is To-beギャップの把握
経営戦略を実行するために求められる部門別・階層別の仕事・役割(To-be)と現在の姿・現在の社員の力量(As-is)とのギャップを鮮明にすることを求めています。このギャップを定量・定性的に把握することにより人材課題が鮮明に浮かび上がります。解決すべき課題が明確になれば、その解決策が策定でき、その通過すべきポイント(KPI)も設定することができます。目指すべき姿(To-be)と現在の姿(As-is)の2時点を明確にすることにより、解決すべき課題を鮮明にしその解決策≒人材戦略を明確に策定することが求められています。
(3)視点3.企業文化への定着
①企業文化への定着
経営戦略と連動した人材戦略を積極的・継続的に実行することによって、組織と個人の行動変容を促し人材戦略が求める行動実践が当たり前こと、つまり企業文化として定着することを求めています。
企業文化への定着を図り持続的成長基盤を強固にするためには、経営トップからボトム社員に至る企業構成員において人材の成長・定着と働きやすい環境整備が重要であるという価値観を共有し続ける必要があります。まず、経営層および管理職が「人材は宝」ということを改めて再認識することが肝要と考えられます。
次回は、人材版伊藤レポートにおける「5つの共通要素」の実務対応ポイントを解説します。