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人材紹介よもやまばなし(第2回)

国から認定されるホワイト企業(その2)

 前回は、国が認定するホワイト企業の制度として、若者向けのホワイト企業として厚生労働省が認定する「ユースエール制度」をご紹介致しました。

 また幣グループ税理士法人杉田会計アソシエイツのコラム「経営財務かわら版 第126号 令和6年1月号」でご紹介した女性の仕事と子育ての両立を支援・サポートしている「子育てサポート企業」を認定する「くるみん認定制度」や女性の活躍推進に関する状況や取組等が優良な企業を認定する「えるぼし認定制度」など女性が働きやすい環境を整えている企業を厚生労働省が認定する制度もあります。

 これらの諸制度は、厚生労働省主管ですので労働環境の向上に主眼目が置かれています。そのため、例えば「ユースエール制度」が定める労働時間(※注1)や有給休暇(※注2)の目標数値については、人員不足に悩む中小企業の実態からはクリアするのが難しい高い設定かもしれません。しかしながらこのような目標数値が国によって設定されますと、これをクリアするかどうかがホワイト企業とブラック企業の線引きへと発展していく可能性は十分にあり得えますので、今後の人事政策上大きな課題になるとご認識いただければと存じます。

※注1)前事業年度の正社員の月平均所定外労働時間の平均が20時間以下かつ、月平均の法定時間外労働60時間以上の正社員が1人もいないこと。

※注2)前事業年度の正社員の有給休暇の付与日数に占める取得日数の平均が70%以上または取得日数の平均が10日以上あること。

 さてホワイト企業として国から認定してもらう制度には、厚生労働省が認定するもの以外に、経済産業省が企業の「健康経営」の取り組みを促進するため、2016年に創設した「健康経営優良法人認定制度」があります。

 2020年以降のコロナ禍での度重なる非常事態宣言を受けて多くの企業でリモートワークが日常化するなど働き方が大きく変わってきました。企業側でも、従業員の健康を守るべく様々な対策が取られるようになり、「健康経営」に取り組む企業が増えてきました。 また日本の労働人口は依然として減少傾向にあり、人材確保が企業にとって大きな課題となっており、アフターコロナの状況で「健康経営優良法人」の認定取得に対する企業の関心が高まっています。

【健康経営優良法人認定制度とは】

  • 「健康経営優良法人認定制度」とは、地域の健康課題に即した取り組みや日本健康会議(※注)が進める健康増進の取組をもとに、特に優良な健康経営を実践している大企業や中小企業等の法人を顕彰する制度です。

(注)「日本健康会議」とは、少子高齢化が急速に進展する日本において、国民一人ひとりの健康寿命延伸と適性な医療について、民間組織が連携し行政の全面的な支援のもと実効的な活動を行うために組織された活動体です。経済団体、医療団体、保険者などの民間組織や自治体が連携し、職場、地域で具体的な対法策を実現することを目的としています。

  • 健康経営に取り組む優良な法人を「見える化」することで、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として社会的に評価を受けることができる環境を整備することを目標としています。
  • この制度では、大規模の企業・医療法人等を対象とした「大規模法人部門」と、中小規模の企業・医療法人等を対象とした「中小規模法人部門」の2つの部門により、それぞれ「健康経営優良法人」を認定しています。
  • 「健康経営優良法人」に認定されると、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として社会的な評価を受けられます。

(参考:健康経営優良法人認定制度(METI/経済産業省)

この「健康経営」とは、従業員などの健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。経営理念に基づき、従業員の健康保持・増進に取り組むことで、組織の活性化や生産性の向上、企業価値の向上などの効果が期待されます。

さらに、従業員の健康リスク・ 離職率を低減でき、よりよい労働環境は地域経済や社会にも好影響を与えます。今、従業員の心身を大切にする考え方が経営にも日本にも必要とされているのです。

(健康経営優良法人認定事務局(日本経済新聞社)発行「なんだろう?健康経営」より)

このように健康経営優良法人に認定されると以下のようなメリットが得られます。

生産性が向上します。

健康経営は、実施の少し後でROAとROSが上昇する傾向が認められています※。

※(出所)日経Smart Workプロジェクト「スマートワーク経営研究会」中間報告「働き方改革 と生産性、両立の条件」(2018年6月)ROA:総資産経常利益率 ROS:売上高営業利益

生産性の向上は、健康経営のメリットであると同時に大きなゴールであるともいえます。

企業イメージが向上します。

・ワークライフバランスに配慮した会社というイメージを持たれ、企業のブランドイメージが高まります。

・「健康経営優良法人」に認定されると、経済産業省のホームページに社名が掲載されます。

・「健康経営優良法人」のロゴマークが付与され、広報活動に広く利用できます。

・ハローワーク求人票に「健康経営優良法人」のロゴマークが利用可能です。

・我が国に入国を希望する外国人の在留資格審査手続きの簡素化が可能になります。

人材確保が有利になります。

・離職率が低下します。

 全国平均の離職率11.1%(2021年)に比べ、健康経営銘柄2.2%(2023年)、健康経営優良法人4.6%(2023年)、健康経営度調査回答企業平均4.6%と健康経営優良法人や健康経営に取り組む企業の離職率は低い傾向にあります。(経済産業省委託調査「健康経営銘柄、健康経営優良法人の離職率」)

・就活の決め手になります。

「健康経営が就職先の決め手になるか」という設問に対し、6割以上が決め手になると回答しています。(2023年度 日経リサーチ 調査結果 「就活生・転職者に関する調査」)

自治体や金融機関のインセンティブが受けられます(補助金審査加点・融資優遇)。

主な補助金には以下のようなものがあります。  

  • ものづくり-商業-サービス生産性向上促進補助金
  • IT導入補助金
  • 事業継承-引継ぎ補助金
  • Go-tech補助金
  • 事業再構築補助金
  • 働き方改革推進支援資金(企業活力強化貸付)

また自治体や金融機関も、健康経営優良法人や健康経営に取り組む企業に対して融資や減免措置、表彰など様々なインセンティブを設けています。

※インセンティブの詳細については、経済産業省ホームページを参照の上、各機関にお問合せください。

前述のように健康経営優良法人には、大規模法人部門と中小規模法人部門があります。

このうち健康経営優良法人(中小規模法人部門)に申請できるのは、常時使用する従業員の数が以下のいずれかに該当する法人となります。

①製 造 業  そ の 他:300人以下

②卸       売       業:100人以下

③小       売       業: 50人以下

④医療法人・サービス業:100人以下

健康経営優良法人(中小規模法人部門)への申請から認定までの流れは以下の通りです。

①【宣言】加入している保険者(協会けんぽ、健康保険組合連合会、国保組合等)が実施している健康宣言事業に参加します。

②【実践】自社の取組状況を確認し、中小規模法人部門の認定基準に該当する具体的な取組を申請書に記載。

③【申請】日本健康会議認定事務局へ申請。

④【認定審査】健康経営優良法人(中小規模法人部門)認定申請書の内容に基づき、要件の達成状況を判定します。

⑤【認定】審査結果に基づいて日本健康会議で認定されます。

「中小規模法人部門」で特に優良な健康経営を実践している上位500法人に対しては「ブライト500」という特別称号が与えられます。因みに「大規模法人部門」の上位500法人には「ホワイト500」という特別称号が与えられます。

(参考)健康経営優良法人2022(中小規模法人部門)認定要件

(注)認定基準に適合することを証明するため、過去3年以内に、下記基準に定める基準に適合している旨の誓約書を提出こと。

  ①労働基準法、労働安全衛生法等の従業員の健康管理に関する法令に係る違反により、送検されている、  行政機関により法人名が公表されている、又は是正勧告を受けたが是正措置を講じていないこと。

②労働安全衛生法第 78 条又は第 79 条に基づき安全衛生管理特別指導事業場に指定されていること。

さて従業員の健康を管理して生産性の維持・向上を図る「健康経営」は、人材を資本ととらえる「人的資本経営」と密接な関係にあります。「人的資本経営」は、企業価値向上のために従業員価値を上げることを目指しますが、「健康経営」は、従業員価値向上のために、従業員の健康を促進します。つまり「健康経営」は、「『人的資本経営』を実践する上で土台となる経営手法」といえるのです。

このように「健康経営優良法人制度」は、「人的資本経営」の「見える化」のひとつとして位置づけられており、従業員の健康の維持向上が企業業績向上に繋がるものとして、経済産業省や産業界がバックアップしているものなのです。

「人的資本経営」については、幣グループCMCビジネスコンサルティング株式会社のコラム「中小企業におけるサステナビリティ経営の留意点~人的資本経営編」で奇数月に詳しく解説しておりますのでそちらをご覧ください。

なお、「健康経営」はやや抽象的な概念であり、またすぐに結果が出るものでもないので、なかなか従業員の理解を得られないという問題点も指摘されています。しかし従業員の健康の維持・向上は結果的に従業員自身の幸せに通じるものでありますから、中長期的な取り組みであることをはっきりとさせ、わかりやすい具体的な目標を掲げることで従業員の理解を深めていくことが肝要と言えましょう。

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