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中小企業におけるサステナビリティ経営の留意点 人的資本経営偏 第1回

1. 何故人的資本経営が求められているのか

 ここ2~3年、企業経営におけるキーワードとして「人的資本経営」がクローズアップされています。新聞・経済誌・インターネット等の媒体において「人的資本経営」というワードがあふれています。上場会社においては有価証券報告書において非財務情報として人的資本経営関連情報の開示が求められています。また、女性活躍推進法を始めとした法令においても企業経営における人的資本(=社員)の活性化策を義務づけています。

 人的資本経営への取り組みは、中小企業ほど積極的かつ真剣に取り組むべきテーマといえます。社員数の多い上場大企業だけが取り組むテーマではなく、法令で義務づけられているから対応するような消極的に取り組むテーマでもありません。少子高齢化により生産年齢人口(15歳~64歳)の減少による人手不足が恒常化し、人材の採用 ⇒ 育成 ⇒ 定着 ⇒ 生産性の向上サイクルの確保をこれまで以上に強固しなければならない中小企業ほど「人的資本経営」に本気で取り組む必要があると考えられます。人的資本経営への取り組みの温度差が企業成長に大きなインパクトを与えるといえます。

 本コラムにおいてシリーズで中小企業における「人的資本経営の留意点」について解説して参ります。

2. 人的資本経営の留意点の全体系

 本コラムにおける「人的資本経営の留意点」について、以下の項目に従って解説致します。なお、本コラムは原則、奇数月に連載致します。

(1)人的資本経営の潮流

  • ① 政府主導による人的資本経営の流れ
  • ② 人材版伊藤レポート・人材版伊藤レポート2.0
  • ③ 政府・東京証券取引所の動き(法令および情報開示の動き)
  • ④ 中小企業に与えるインパクト

(2)中小企業における人的資本経営の実践ステップ

  • ① 現状把握
  • ② 人材戦略の構築
  • ③ 人事施策の策定(KPIの設定)
  • ④ 人事施策の実践(運用の徹底)
  • ⑤ モニタリング(PDCAサイクルの確保)
  • ⑥ 育成・処遇への反映
  • ⑦ 経営業績へのインパクト検証

どうぞお気軽にご相談ください。

3. 人的資本経営の潮流

政府主導による人的資本経営の流れ

 失われた30年などと言われ、直近(2023年11月)において我が国はGDP世界4位(米国・中国・独国・日本)に下がるなど経済・産業における成長停滞が恒常化しております。

 こうした状況を打破するために、安倍内閣時代の成長戦略の一環として経済産業省から2014年に「伊藤レポート」、2017年に「伊藤レポート2.0」および「価値協創ガイダンス」が発表されました。持続的な成長・価値向上を目指すための方向性が示されました。

 このようなガイドラインに従って成長戦略が実行される中で注目されてきたのが、「人的資本」です。2015年時点における米国のS&P500銘柄における無形固定資産価値が企業価値の約9割を占めるとの統計データも発表され、企業価値形成の重要な要素が有形固定資産から無形固定資産に移行したことが示されました。無形固定資産の源泉は「社員=人材=人的資本」です。

 このような流れの中で、2020年9月に「人材版伊藤レポート」が経済産業省の諮問機関である「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」より発表されました。さらに、2022年3月に「人材版伊藤レポート2.0」が同じく経済産業省の諮問機関「人的資本経営に向けた検討会」より発表されました。この2つのレポートにより「人的資本経営」の方向性が示され、企業経営における人的資本経営への取り組みが加速されました。さらに、岸田内閣は「新しい資本主義実現会議」を設置し、ワーキンググループ「非財務情報可視化研究会」において人的資本の開示指針を示し、19項目の開示項目を整理しました。

 このように人的資本に着目した「人的資本経営へのシフト」を求めています。「人材版伊藤レポート」および「人材版伊藤レポート2.0」の取りまとめ座長を務めた一橋大学の伊藤邦雄名誉教授は、「人的資本経営の巧拙で企業価値向上が左右される」と説いています。

 次回は、「人材版伊藤レポート」および「人材版伊藤レポート2.0」を主テーマに置き、中小企業における人的資本経営の重要ポイントを解説します。

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