前回(第2回)は、オフィスの区分所有建物への投資について解説しました。今回は、相続土地国庫帰属制度について解説致します。
〇相続土地国庫帰属制度について
【1】背景・立法の趣旨
この制度の背景は、土地を相続したものの土地利用ニーズの低下等により土地を手放したいと考える者が増加していることや相続を契機として土地を望まず取得した所有者の負担感が増しており、管理の不完全を招いていることがあります。このことから、令和3年に「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が公布され、令和5年4月に施行となりました。
この制度は、相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により取得した土地を手放して国庫に帰属させることができるものです。しかしながら、管理コストの国への転嫁や土地の管理をおろそかにするモラルハザードが発生するおそれを考慮して一定の要件が設定され、法務大臣が要件を審査することとされました。
この制度により将来的に土地所有者不明化、管理不全化することを予防することが可能となります。
【2】手続き・要件等
相続等で取得した土地を国に引き渡したい方は、次の[1]法務局への相談及び申請書類の作成・提出、[2]法務局の審査、 [3]負担金の納付の手続きをすることで土地を国に引き渡すことができます。
[1]法務局への相談及び申請書類の作成・提出
土地の所在する法務局の本局への相談及び申請書類の作成・提出は次の<1><2><3>になります。
〈1〉相談するにあたり、相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により土地を取得した者(尚、共有地の場合は共有者全員で申請する必要があります。)である承認申請者であることが必要です。
〈2〉申請できない土地(承認申請不適格事由に該当する土地)は次①~⑤となります。
(申請の段階で直ちに却下となる土地)
①建物の存する土地
②担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
③道路その他の他人による使用が予定されている土地が含まれる土地(墓地内の土地、境内地等)
④土壌汚染対策法に規定する特定有害物質により汚染されている土地
⑤境界が明らかでない土地その他所有権の存否、帰属又は範囲について争いのある土地
〈3〉必要な申請書類・添付書類を作成・準備し提出前に法務局に可能な限り相談予約を取って確認し、書類に問題がなさそうであれば審査手数料の金額に相当する収入印紙を貼り法務局に提出します。
[2]法務局の要件審査・承認
法務局は、提出された書面を審査し申請された土地に出向いて実地調査を行います。また、審査の段階において帰属の承認できない土地(承認不適格事由に該当する土地)は次の①~⑤になります。
(審査の段階で該当すると判断された場合に不承認となる土地)
①(政令で定める基準に該当する)崖がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
②土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
③除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
④隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
⑤(上記①~④以外の土地のほか)通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの
法務大臣は、承認または不承認をすることとしたときは、その旨を承認申請者に通知しなければなりません。
[3]負担金の納付
土地所有権の国庫への帰属の承認を受けた者は、承認された土地について国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用を考慮して算定した額の負担金を納付しなければなりません。
これは、国が管理することになった土地に関して元々の土地の所有者が土地の管理の負担を免れる程度に応じて国に生ずる管理費用の一部を負担していただくことになっている為です。
【3】土地の国庫帰属後において
(1)国庫帰属した土地の管理・処分
国庫帰属した土地は、国有財産として国有財産法が適用され、管理・処分が行われることとなります。
(2)承認の取り消し
法務大臣は、承認申請者が偽りその他不正の手段によって承認を受けたことが判明したときは、これを取り消すことができるとされています。
(3)承認を受けた者の損害賠償責任
承認に係る土地について当該承認の時において承認申請不適格事由または承認不適格事由のいずれかに該当する事由があったことによって国に損害が生じた場合において、当該承認を受けた者が当該事由を知りながら告げずに同項の承認を受けた者であるときは、その者は、国に対してその損害を賠償する責任を負うものとされています。
今回は、相続により取得した土地が不要な土地の場合、この土地を国が引き取ることで相続人はこの土地を手放すことができることで所有者不明土地を生じさせなくなる、相続人のための相続土地国庫帰属制度について解説致しました。
皆様の回りに起こりえる相続の土地問題の解決のご参考になればと存じます。