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【寄稿】BDO三優ジャーナル 2024.Dec.No,162

本記事はBDO三優ジャーナル2024.Dec.No,162に寄稿させていただきました内容です。

「日本経済の動向と企業の経営課題」

一本年度6月の株主総会に見る課題とサステナビリティ経営の進展ー

三優監査法人 名誉会長 杉田 純

2024年7~9月期の実質GDPはアナリストの予想では、前期比年率1.9 %増(前期2.9 %増)と成長が予想されている(日本総合研究所)。内需は底堅かったが、自然災害が景気を下押しした。8月後半の台風の影響により国内製造業の生産は前月比3.3 %減となった(経済産業省)。南海トラフ地震臨時情報も夏休み時期の個人消費に冷や水を浴びせた。個人消費は前期比年率2.4 %増 (前期3.7 %増)と想定され、自動車販売は増加したが、これまで消費回復の牽引役であったサービス消費が鈍化、物価高から非耐久財を中心に財消費も弱含みであった。設備投資は前期比年率2.4 %増(前期3. 1 %増) と予想されている。海外経済の減速から業務用機械など能力増強投資は低調だが、輸送機械投資は増加し、省力化・情報化対応に向けたソフトウェア投資も堅調であった。住宅投資は前期比年率0. 1 %減(前期7. 1 %増)で、資材価格の高止まりから住宅建設コストが増加し住宅投資を下押しした。外需は前期比年率寄与度十0. 1% (前期寄与度-0.3 % )で、輸出が前期比年率4.7 %増で自動車の輸出増があり、インバウンド需要の回復からサービス輸出も増加した。一方で輸入が前期比年率4.0 %増となり、結果として外需は2四半期ぶりのプラス寄与となった。以上、日本経済は一進一退が続いており、1~3月期が品質不正問題から自動車の生産が止まり、前期比年率2.4 %減という大きなマイナスで4~6月期はその反動から 2.9 %増のプラス成長となったが、7 ~9月期は災害の影響が大きかったものの、1.9 %増の成長となった模様。一方、消費全体が手控えられている訳ではなく、防災意識の高まりから米や水の売れ行きは前年より好調で、課題であった所得環境も改善しており、夏の一時金が高い伸びとなったことから、物価影響を考慮した実質賃金も2カ月連続でプラスとなった。以上のことから、秋以降消費が堅調に推移すれば、景気改善の動きも本格化すると思われ、10~12月期の実質GDPは自動車の挽回生産やインバウンド需要に支えられ、プラス成長となる可能性は高いと予想されている

世界経済の動向について見てみると、IMF (国際通貨基金) は’ 24年10月に世界経済の成長率を3.2 %と前回の予想を据え置いた。まず、中国経済であるが、中国のエコノミスト調査では、不動産不況からデフレ懸念が深まり減速が見込まれている。米国大統領選の行方次第では米国の中国からの輸入品へ高率の追加関税を課すなども予想されており、EUの中国製EVへの追加関税もあり中国製品の貿易障壁が高まることから、中国製造業の輸出拡大にも歯止めがかかりそうである。 IMF10月公表の見通しでは、’ 24年の中国のGDP予想は4.8 % (前回5.0 %増)とされた。米国経済は、10月4日公表の9月の雇用統計は非農業部門の就業者数が前月比25.4万人増となり、11月のFRB (米国連邦準備制度理事会)の大幅利下げ観測は後退した模様。IMF予想では米国経済はGDP成長率を2.8 %増(前回2.6 %増)としており、今後引き上げられることも予想される。欧州経済は’ 24年4~6月期の前期比0.3 %増、年率換算1.0 %増であったが、欧州最大のドイツ経済はマイナス成長(前期比0. 1 %減)に転落したため0.8 %増(前回0.9 % 増)とされた。ウクライナ危機からの急速なインフレが峠を越え景気底入れの薄明かりが差し始めた。問題は景気回復の持続力であり、個人消費、投資・生産も低迷しており、ユーロ圏経済の3割を超える規模のドイツの不調もあり、今後も動向の注視が必要であろう。なお、肝心の日本経済であるが、9月 19日に経済財政諮問会議で’ 24年の日本経済の実質成長率が0.9 %となる試算を示し、閣議決定された。他方、IMFは日本の ‘ 24年の成長率0.3 %増(前回0. 7 %増)と想定している。

ここで、主要上場企業の業績動向について見てみる。直近では、急速な円高などもあり、製造業関連では業績への影響も予想されている。AIブームで半導体関連業界は好調である。アドバンテストが生成半導体需要拡大から試験装置の需要が拡大し、当初予想純利益を339億円増加させ9月末予想を 1 , 143億円とした。他方業績予想の切り下げが自動車、鉄鋼業界では行われており、日産は純利益予想を1 , 135億円へ引き下げたが、米国での競争激化に加え円高が原因であり、同じくトヨタ(ー941億円)、デンソー(ー204億円)と予想利益を引き下げている。鉄鋼業界では日本製鉄が予想利益3 , 631億円(-200億円)と引き下げており、こちらは世界的需要の低迷と原材料価格の上昇が原因である。小売り・サービス業では賃上げ、インバウンドの増加を支えに国内消費の持ち直しの兆しもあり、宿泊、小売り販売は堅調に推移してきているが、深刻な人手不足も指摘されている。大丸松坂屋では9月の既存店売上が前年同月対比で5.4 %増であった。プリンスホテルではインバウンド客増加で4~6月の宿泊売上が前年同期比約2割増、稼働率5 %上昇であった。ファーストリティリング傘下のユニクロでは、8月の国内既存店の客単価が前年同月対比6 %増で8カ月連続の増加であった。全体として製造業も含めた企業業績は堅調であったと言える。日銀短観の9月調査では、’ 24年度の企業の売上は全業種・全産業で2.4 %の増収となると予想している。

ここで’ 24年3月期決算企業が開いた6月の株主総会の動向について述べることとする。新型コロナウイルスの感染症法上の分類が5類に移行後1年以上経過した本年度の株主総 は平常化した環境下で行われ、多くの会社で来場者数が増加し活気が戻ってきた。株主総会に関する法制度の改正もなく、多くの会社では、電子提供制度の2年目の対応や本来の総会運営が主な検討事項となった模様であった。他方、株主提案のあった企業は過去最高の91社に達し、株主提案に賛成する動きが広がっている。機関投資家だけなく個人株主も企業価値(資本効率)を強く意識して判断するようになりつつあり、資本コストや配当に関する提案が4割超の賛成を集めた(日本経済新聞調査)。東洋水産は資本コスト開示に関する定款変更の提案を機関投資家から受け、賛成率は48.66%と半分近くあった。文化シャッターでは、資本コストを下回る政策保有株式の銘柄と保有継続の理由を求められた。政策保有株式は安定株主作りにつながり、株価上昇で自己資本が増大し資本効率を悪化させ、目標ROEが達成出来にくくなることがリスク要因とされている。ダイドードリンコでは、機関投資家が提案した取締役選任の一部が可決された。「赤字を続ける現経営陣が推薦する取締役に任せられない」という意見もあった。他方、会社側も対話への意識を高めており、今後は企業と株主の攻防は激しさを増すことが想定されるが、企業の成長や価値向上を前提とする議論が活発になれば、日本企業の資本効率向上や企業統治の向上余地は今後大きくなるものと予想される。

次に本年度株主総会の個別事項の実態についても述べることとする。

▶(1)東証要請事項への対応:東証は、「論点整理を踏まえた今後の東証の対応( ‘ 23年1月30日)」を公表し、 ①資本コストや株価への意識改革、【PBR1倍割れ】からの脱出という指標は分かりやすく株主も注目し、株価、資本コストへの関心は高まり総会招集通知でも記載が見られた。東証は毎月「資本コストや株価を意識した経営」についてCG報告書で開示状況を報告しており、’ 24年6月末でプライム市場の 81 % ( 1,335社)、スタンダード市場の40 % (638社)が開示している。②コーポレート・ガバナンスの質の向上、③英文開示の更なる拡充、④投資家との対話の実効性向上に関する取組などを促進してきた。プライム市場上場会社では、直近の対話の実効性向上のため、経営陣と株主との対話の実施状況の開示が要請されており、開示媒体としてアニュアルリポート、自社ウェブサイトが例示されている。

▶(2)機関設計の選択状況:本年度総会終了後全体の3, 830社のうち1 , 620社(42 % 超)が監査等委員会設置会社であり、6月総会での移行会社は60社であった。監査役設置会社は2 , 115社(全体の55 %超) であり、指名委員会等設置会社は95社であった(三菱信託銀行調査)。

▶(3)社外取締役の選任状況:コーポレート・ガバナンスコード(原則4ー8 )については、プライム市場上場企業で、独立社外取締役を3分の1以上選任すべきとされ、当該割合は98.1 %に達している。業種・規模・事業特性などから過半数の独立社外取締役を選任している企業も20.4 % (前年15.9 % ) と前年に比して増加した。

▶(4)女性取締役の選任状況:政府の女性版骨太の方針を受け、東証は有価証券上場規程でプライム市場上場会社へ「’ 30年までに女性役員の比率を30 % 以上とすることを目指す」との目標を定めている。規程では、女性役員の定義を取締役・監査役・執行役に加えて執行役員またはそれに準ずる者と定義しており、日経500採用銘柄の企業ではほぼすべての企業で女性取締役が選任されている。女性取締役を社外取締役として選任している企業が多数を占めるが、社内取締役として選任する企業が増加している。女性役員の比率については、30 %以上の企業は本年6月には約1割であるが、「20 %以上30 %未満」の企業は30.2 %になっている。

▶(5)株主総会のデジタル化: 1 )電子提供制度の対応状況については、以下3パターンの中から形態を選択している。①アクセス通知(法令上の記載事項のみを記載するもの)、②サマリー版(アクセス通知の内容に加えて総会資料の一部や任意の情報を送付する。③フルセット(従来通りの総会資料一式を送付する)。フルセットは昨年より減少して59.1 % (昨年比9.4ポイント減少)、サマリー版の採用会社は
33.4% (昨年比7.5ポイント増)、アクセス通知のみは7.4 % (昨年比1.8ポイント増)であった。本年度は送付物の軽量化の進展が見られ、プライム上場企業では、サマリー版の採用が半数近い47.6 % (昨年比12.8ポイント増)となった。2 )バーチャル株主総:このバーチャル総会実施会社は411社(ハイブリッド参加型381社、ハイブリッド出席型15社、バーチャルオンリー型15社)であり実施企業は’ 22年以降横ばいであった。

次にサステナビリティに関連する有報上の開示についても触れておくと、’ 20年3月期からとなっていた記述情報の充実の開示布令によってサステナビリティ情報の開示が増加しており、’ 23年3月期の有報からはサステナビリティ情報の項目が統一された。引き続き気候関連の開示を拡充する企業が増加しており、 こでは気候関連の開示について現状を述べることとする。1 ) TCFD提言に基づく気候変動に関する開示動向:開示している調査対象会社のうち65 %の125社では、提言に言及し、シナリオ分析に基づくリスクと機会がもたらす影響を開示している。2 )シナリオ分析と温室効果ガス (GHG)排出量の開示: GHG排出量を有報で開示している会社は増加傾向にあり、130社であった。開示しているスコープはスコープ1~3まで開示している会社が70社( 53. 8 % )であり、ISSB基準では適用初年度はスコープ3の開示省略の救済措置があるためと思われる。スコープ1は報告企業が所有又は支配する排出源から発生するGHG、スコープ2は報告企業が消費する、購入または取得した電気、蒸気、温熱又は冷熱生成から発生する間接的なGHG排出をいう。スコープ3は報告企業のバリューチェーンで発生する間接的なGHG排出をいい、上流、下流両方のGHG排出を含む。上場企業全体( 3 , 553社) で見ると、スコープ1の開示は802社、スコープ2は807社、スコープ3は157社である。3 ) GHG排出量の信頼性確保のためにSBT (Science Based Targets)の認定について:SBTの認定を取得した旨の記載は24社であり、SBT認定を申請中か推進しているとする会社が10社あった。いずれにせよ、我が国においてもサステナビリティ基準委員会からISSB基準に相当する「サステナビリティ開示ユニバーサル基準公開草案」、同2号「気候関連開示基準(案)」が’ 24年3月に公表されており、’ 25年3月までに基準の確定が行われ、’ 27年3月期決算から時価総額3兆円以上の企業から適用が予定されているので、留意が必要である。なお、順次適用は拡大していく予定であると同時に適用対象企業と取引があり、バリューチェーン (スコープ3 )に入る企業は同様な開示が求められる可能性もあるので、合わせて注意すべきである。

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